こんな勉強の悩みはありませんか?
・何度も読んでいるのに覚えられない
・授業で聞いた内容が頭に残らない
・暗記科目が苦手
こうした悩みを持つ人にこそ知ってほしいのが、「デュアルコーディング理論(二重符号化説)」という学習心理学の考え方です。
なぜ覚えられないのか?学びにくさの正体
がんばっているのに結果が出ない理由
「何度も教科書を読んだのに、テストのときに思い出せなかった」「授業のときはわかった気がしたのに、家に帰ったらさっぱり忘れていた」「理科や社会の用語がなかなか頭に入ってこない」。このような経験をしたことはありませんか?
実は、多くの人が似たような悩みをもっています。「勉強が苦手」「暗記ができない」と感じている人の多くは、一生懸命がんばっていないわけではありません。むしろ、「なんとか覚えよう」「がんばって成績を上げたい」と思って、何回も教科書を読み返したり、ノートを見直したりしているはずです。
それでもうまく覚えられないのは、決してあなたの努力不足や才能のせいではありません。実は、「どうやって覚えようとしているか」、つまり情報の入れ方に問題がある可能性があるのです。
言葉だけの勉強には限界がある
私たちは、学校の授業や教科書を通して、たくさんの情報を「言葉」で受け取っています。たとえば、歴史の授業で「鎌倉幕府は1192年に源頼朝が開いた」と習ったとします。その情報は文字や音声、つまり「言葉」として頭に入ってきます。
もちろん、言葉を使って学ぶことはとても大切です。しかし、言葉だけに頼った学び方には、限界があります。特に、内容が抽象的だったり、登場する用語が多かったりすると、言葉だけではなかなか理解が追いつかなくなってしまうのです。
たとえば、「血液の循環」という理科の単元を考えてみましょう。文章で「心臓から動脈を通って体に酸素を届け、静脈を通って二酸化炭素を戻す」と書かれていても、言葉だけではその流れをイメージしにくいと感じる人がいるかもしれません。ですが、そこに図が加わるとどうでしょうか。血液の流れる方向を矢印で示した図を見れば、「ああ、こうやって全身を回っているんだ」とイメージがしやすくなり、理解も深まります。

このように、言葉だけで学ぼうとすると理解しづらいことでも、視覚的な情報が加わることで、脳にとってわかりやすい形に変わります。私たちの脳は、「言葉」と「イメージ」の両方を使ったときに、より強く情報を記憶できる仕組みになっているのです。
脳は「言葉」と「イメージ」の両方を使って学んでいる
学習心理学の研究の中で、カナダの心理学者アラン・パイヴィオは、脳の情報処理の仕組みについて注目すべき理論を提唱しました。それが「デュアルコーディング理論(二重符号化説)」と呼ばれるものです。「デュアル」とは「二重」という意味で、「コーディング」は「記録する・記憶する」という意味があります。つまり、「デュアルコーディング理論」とは、「情報を2つの方法で記憶する」という考え方です。
パイヴィオの理論によると、私たちの脳は情報を受け取るときに、言葉で処理する「言語チャネル」と、図やイメージで処理する「視覚チャネル」という、2つの経路を使っているとされています。この2つの経路は別々に働きながら、互いに助け合って記憶をつくる役割を果たしています。

たとえば、「地球は太陽のまわりを回っている」という文章を読んだとき、その言葉だけでも意味はわかるかもしれませんが、太陽と地球の距離や回転の向き、速さまでは正確にイメージしにくいことがあります。しかし、そこに地球と太陽の関係を描いた図が加わると、一気に全体の様子が見えてきます。文字だけの説明よりも、図があるほうがはるかに記憶に残りやすいのです。
また、言葉で覚えたことを図として思い出せるようになると、記憶の引き出し口が2つに増えることになります。言葉で思い出せなくても、図をイメージすることで情報にたどり着くことができる。こうした効果によって、記憶の定着が強まるのです。
言葉とイメージの力を合わせるとどうなるのか
ここで、もう少し身近な例を考えてみましょう。
たとえば、英単語を覚えるとき、「apple=りんご」と文字だけで覚えるよりも、りんごの絵を一緒に見ることで、記憶に残りやすくなった経験はありませんか? あるいは、「関ヶ原の戦い」と聞いたとき、地図や合戦図を見ながら学んだほうが、どの場所で何が起きたのかがはっきりと理解できたことはないでしょうか。
このように、言葉とイメージを一緒に使って学ぶことで、脳の働きがより活発になります。情報が複数のルートから入り、互いに補い合うことで、理解が深まり、思い出す力も強くなるのです。
実際、教育の現場でも、図やイラスト、表やグラフなどを使った教材が効果的だということは広く知られています。理科の教科書では、文章と図がセットになっているページが多くあります。社会では地図や年表、数学では関数のグラフや図形が使われています。これらはすべて、デュアルコーディング理論に沿った、理解しやすい学び方を実現するための工夫なのです。
理解できるからこそ、記憶にも残る
私たちは、よく「覚えること」が勉強だと思いがちですが、実は「理解すること」こそが記憶への近道です。意味がわからないまま丸暗記しようとすると、すぐに忘れてしまうことが多いのは、脳がその情報を「必要なもの」と判断できないからです。
けれども、言葉とイメージを組み合わせて情報を処理すると、頭の中でその内容が「意味のあるもの」「つながりのあるもの」として理解されます。すると脳は「これは大事なことだ」と判断し、長期的に記憶に残してくれやすくなります。
つまり、ただの暗記ではなく、「意味をもって理解し、それを覚える」ことが、効率の良い学習につながるのです。そしてそのために役立つのが、デュアルコーディングという学び方なのです。
これからの学びに生かすために
もし今、なかなか成績が上がらないと感じていたり、がんばっているのに覚えられないと悩んでいるとしたら、それはあなたの能力のせいではありません。問題は、情報の「受け取り方」や「処理のしかた」にあるかもしれません。
デュアルコーディング理論を知り、学び方を少し変えてみるだけで、理解がスムーズになり、記憶にも残りやすくなることがたくさんあります。これは特別な道具が必要な方法ではありません。今のノートや教科書を使いながら、ほんの少し工夫するだけで、誰でも実践できる学び方なのです。
本記事では、次の章からデュアルコーディング理論の具体的な内容と、それを日常の学習にどのように活かしていけるのかを、やさしく丁寧に解説していきます。暗記が苦手な人も、学び方を見直したい人も、ぜひ読み進めてみてください。新しい視点を手に入れることで、あなたの学習がもっと楽しく、もっと力のつくものになるはずです。
デュアルコーディング理論とは何か
言葉とイメージ、ふたつの記憶の入口
私たちが何かを勉強して覚えるとき、頭の中ではどんなことが起こっているのでしょうか?たとえば、理科の授業で「水は0度で氷になる」と習ったとします。ただその言葉をノートに書いたり、声に出して覚えようとしただけでは、すぐに忘れてしまうこともあるでしょう。でも、こんなことを想像してみてください。冷蔵庫に入れておいたペットボトルの水が、次の日に見たらカチコチに凍っていた光景です。白く曇ったペットボトルの中で、氷がぎっしり詰まっている様子が思い浮かびませんか?実は、こうやって「イメージ」として覚えることが、記憶にとても役立つのです。
このように、言葉だけでなくイメージと一緒に情報を思い出せるようになると、記憶はより強く、深くなります。この考え方を説明するのが「デュアルコーディング理論(Dual Coding Theory)」という心理学の理論です。
この理論を提唱したのは、カナダの心理学者アラン・パイヴィオという人物で、1960年代にこの考えを発表しました。彼は、「人の脳は情報を2つのルートで処理している」と考えました。ひとつは「言葉のルート」、もうひとつは「イメージのルート」です。このふたつのルートを上手に使うことで、学習の効果がぐんと高まるのです。
言葉のルートとイメージのルートの働き
それでは、言葉のルートとイメージのルートが、それぞれどのように働いているのかを見てみましょう。
まず、「言葉のルート」とは、文章や話し言葉、記号、数式などのように、言葉や記号を通じて情報を理解し、記憶するルートのことです。たとえば、先生が黒板に書いた説明をノートに写したり、教科書を声に出して読んだり、漢字を何回も書いて覚えたりするのは、すべて言葉のルートを使っていることになります。多くの人が普段の勉強でこのルートを中心に使っています。
一方で、「イメージのルート」は、図や絵、写真、映像、頭の中に浮かべるイメージなどを通じて情報を処理する方法です。たとえば、理科の教科書に載っている実験の写真、地理の地図、歴史の人物の肖像画、さらには映画やアニメで見たシーンまで、すべてがこのイメージのルートにあたります。
この2つのルートは、まったく別々のものではありません。言葉とイメージは、お互いに助け合いながら、私たちの記憶を強くしてくれるのです。つまり、言葉で聞いたことをイメージとして頭に描く。逆に、イメージを見て言葉で説明する。このように両方を組み合わせて使うことで、学んだことをより深く、しっかりと覚えられるのです。

例で学ぶデュアルコーディングの効果
それでは、デュアルコーディング理論の働きが、実際の勉強でどのように役立つのかを、具体的な例を通して見ていきましょう。
たとえば英語の勉強で、「apple」という単語を覚えるとき、ただ「apple=りんご」と文字だけで覚えようとするのは、言葉のルートだけを使ったやり方です。しかし、そこに赤くて丸いりんごの写真や絵を一緒に見ると、イメージのルートも働き始めます。写真のりんごを見ることで、「甘そう」「丸い」「赤い」などの情報も頭に入ってきます。これらの情報は、ただ文字で見るよりも記憶に残りやすくなるのです。
社会の勉強でも同じことがいえます。「鎌倉幕府が1192年にできた」と聞いただけでは、その数字をただ丸暗記しようとしても、すぐに忘れてしまいがちです。でも、当時の武士の絵や、鎌倉の位置が示された地図、あるいは源頼朝の肖像画を一緒に見ながら学ぶと、「1192年にどんな人が、どんな場所で何をしたのか」というストーリーがイメージとして残ります。そうなると、数字もセットで覚えやすくなるのです。
また、理科の単元で「光の屈折」という現象を学ぶときも、言葉だけで「光は異なる物質を通ると進む向きが変わる」と読んでも、実感がわきにくいかもしれません。しかし、水の中にスプーンを入れたとき、スプーンが曲がって見える様子の図や写真を見ると、「ああ、こういうことか」と理解がぐっと進みます。これが、言葉とイメージを組み合わせた学びの力です。
思い出すときにも役立つデュアルコーディング
デュアルコーディングの効果は、覚えるときだけでなく、思い出すときにも発揮されます。
たとえばテスト中、「あれ、答えが思い出せない」と思ったとき、ふと頭に浮かんだノートの図やイラストがきっかけで、答えを思い出したという経験はありませんか?
たとえば、英単語を忘れたとき、「あの単語の横に、リンゴの絵があったから、appleだ!」と思い出すことがあります。また、歴史の年号を忘れたときにも、「年表のいちばん上に書いてあったから、1192年だ」と気づくことがあります。これは、言葉の記憶があいまいでも、イメージの記憶が助けてくれるということです。
言葉だけに頼って覚えていたら、言葉の記憶が抜けたときに何も思い出せなくなってしまいます。でも、イメージも一緒に使っていれば、もうひとつの“道”があるので、そちらから記憶をたどることができるのです。
このように、言葉とイメージの両方を使って覚えることは、思い出すときの助け舟にもなります。それぞれのルートが、記憶への2本の道をつくってくれるのです。
中学生にこそ必要な学び方
中学生になると、小学校のころと比べて学ぶ内容がぐんと難しくなってきます。算数ではなく数学になり、計算だけでなく「関数」や「証明」といった抽象的な考え方が必要になります。理科では、物理や化学の内容が登場し、社会では歴史に加えて地理や公民も学ぶことになります。英語でも、文法や構文が複雑になり、ただの単語の暗記では通用しなくなってきます。
そんな中で、ただ教科書を何回も読むだけの勉強法では、限界があります。なかなか覚えられない、内容が頭に入ってこない、と感じることが多くなるのです。こうしたときにこそ、デュアルコーディング理論がとても役に立ちます。
言葉とイメージの両方を使った学び方は、ただの暗記ではなく、理解を深めることにつながります。そして、これは特別な能力が必要なわけではありません。誰でも、すぐに実践できる方法なのです。
たとえば、ノートに図やイラストを描いてみる。教科書の図や表をしっかり見て、色や形を意識して頭に焼きつける。覚えたい単語の横に、自分で描いた小さな絵をつけてみる。これだけでも、記憶の力がぐんと強くなります。
次の章へつなげて:学びにどう活かすか
ここまで、デュアルコーディング理論がどういうものか、そしてそれがどんなふうに記憶や理解に役立つのかを見てきました。言葉だけではなく、イメージと一緒に覚えることで、情報の入口も出口も増やすことができます。それによって、より確かな記憶が作られ、テストや実生活で必要なときにスムーズに思い出せるようになります。
この理論は、ただ知っているだけでは意味がありません。大切なのは、どのように実際の勉強に取り入れるかということです。次の章では、教科ごとにどのようにデュアルコーディングを活かすことができるのか、実際の学習の場面に合わせて、くわしく紹介していきます。
「ただ暗記するだけの勉強から抜け出したい」「もっとわかりやすく覚えたい」と思っている人は、ぜひ次の章も読んでみてください。あなたの勉強がきっと変わっていくはずです。
なぜデュアルコーディングが学習に効果的なのか
記憶の「入口」と「出口」が増える:思い出すヒントがたくさんあるということ
人間の脳は、ものごとを記憶するのが得意です。しかし、ただ覚えるだけではなく、「必要なときに思い出す」こともとても大切です。勉強でせっかく覚えた内容も、思い出せなければ意味がありません。たとえば、テストのときに「これ、どこかで見たことがあるのに、思い出せない…」という経験をしたことはありませんか? それは、記憶の中に情報はあっても、そこへたどりつく「道」がうまく見つからなかった状態なのです。
この「道」を増やすために役立つのが、デュアルコーディングという方法です。言葉だけではなく、イメージもいっしょに使って覚えることで、脳の中に2つの道ができるようになります。
たとえば、英語で「volcano(火山)」という単語を覚えるとしましょう。文字だけで「volcano=火山」と丸暗記するよりも、火を噴く山の絵や、真っ赤な溶岩が流れている場面、ゴォーッという爆発音などを思い浮かべながら覚えた方が、記憶にしっかり残ります。テストで「volcanoってなんだっけ?」と考えたとき、文字情報が思い出せなくても、「火山の絵」が頭に浮かび、それがヒントになって「そうだ、volcanoだった!」と答えられるようになるのです。
これは、言葉とイメージの両方で覚えたからこそ起こる現象です。片方を思い出すことで、もう片方も自然に引き出されるのです。ちょうど、2本の道が交差していて、どちらからでも目的地に行けるようなものです。
さらに、逆の方向からも同じことが起こります。日本語で「火山」という言葉を聞いたときに、火を噴く山のイメージといっしょに、「あれ、これ英語でvolcanoって言うんだよな」と思い出すこともあります。つまり、どちらからでもたどり着ける「思い出すヒント」が2倍になるというわけです。
このように、デュアルコーディングは記憶の入り口と出口を増やし、より確実に情報を引き出せるようにしてくれます。ただ覚えるだけでなく、必要なときに素早く思い出せるようになることが、学習の大きな助けになるのです。
言葉とイメージが互いを「補い合う」:理解がより深くなる理由
勉強をしていると、言葉だけではよくわからないことがたくさんあります。とくに抽象的な内容や、日常ではあまり使わないような難しい言葉が出てくると、文章を何度読んでも理解できないことがあります。でも、そんなときに図や絵があると、急に「ああ、こういうことだったのか!」とわかるようになることがあります。
たとえば、理科の授業で「光は屈折する」という内容を習ったとき、言葉だけでは「屈折ってなに?」と思うかもしれません。でも、水にさしたストローが曲がって見える絵を見たり、光がガラスの中を通るときに折れ曲がる図を見たりすると、「なるほど、こういう現象のことなんだ」と実感を持って理解できます。
ここで大切なのは、言葉とイメージが「補い合っている」ということです。言葉だけではわかりにくい内容をイメージが助け、逆に、イメージだけでは説明しきれない部分を言葉が補ってくれるのです。ちょうど、ふたりの友達が力を合わせてひとつの問題を解くような関係です。
他の教科でも同じことがいえます。たとえば、歴史の授業で「安土桃山時代」といっても、それだけではどんな時代なのかイメージしにくいかもしれません。でも、その時代の武将の絵や、城の写真、合戦の場面を描いた屏風絵などを見ると、「ああ、こんな雰囲気の時代だったんだな」と感じ取ることができます。そしてそのイメージをもとにして、「織田信長が活躍した時代だったな」などと内容がつながっていきます。
数学でも、「三角形の内角の和は180度」ということを言葉だけで覚えても、ただの数字として頭に残るだけです。でも、三角形の各角を切って一直線に並べると、本当に180度になることが視覚的にわかります。このように、自分の目で見て納得できる体験は、記憶にも強く残ります。
つまり、デュアルコーディングでは、言葉とイメージの両方が力を合わせて、理解をより深く、より確かなものにしてくれるのです。わかった気がする、というあいまいな状態から、「はっきりわかった!」という自信のある理解へと導いてくれるのが、この学び方の大きな魅力です。
抽象的なことが「見える化」される:目に見えない世界を想像する力を育てる
中学生になると、勉強の内容がどんどん難しくなっていきます。それは、覚えることが増えるだけでなく、「目には見えないもの」を理解する必要が出てくるからです。たとえば、理科では「分子」や「原子」「電流」「エネルギー」など、実際には目に見えないけれど、自然の仕組みを理解するために欠かせない概念が出てきます。
こうした抽象的な内容を、言葉だけで理解しようとするのはとても大変です。「電気が流れるって、どういうこと?」「エネルギーが保存されるってどういう意味?」と、疑問ばかりが頭に浮かんでくるかもしれません。
そこで役に立つのが、イメージの力です。たとえば、「電流」を説明するとき、水の流れにたとえるとわかりやすくなります。水道のパイプの中を水が流れるように、電線の中を電気が流れていく、といったモデル図を見ると、目に見えない電流の動きがイメージしやすくなります。これに加えて、「スイッチを入れると電気が流れて豆電球がつく」という具体的な説明があると、さらに理解が深まります。
数学でも、「関数」や「比例」「反比例」といった考え方は、文字の説明だけではなかなか頭に入りません。でも、グラフを使って「xが大きくなるとyも大きくなる」とか、「逆にxが増えるとyが小さくなる」という関係を目で見れば、直感的にわかります。この「目で見てわかる」という体験が、理解の土台をつくるのです。
英語でも、時間の感覚や仮定の話など、現実とちがうものを表す表現を学びます。「現在完了形」や「仮定法」などは、文章だけで理解するのは難しいですが、タイムラインを使って「この時点から今までずっと続いている」とか、「もし〜だったら、〜だったのに」といった意味を図で示すと、頭の中で整理しやすくなります。
このように、イメージは「目に見えないこと」を「目に見える形」にしてくれる大切な役割を果たしています。そして、そのイメージを言葉と組み合わせることで、より深く理解することができるのです。見えない世界を想像し、理解し、説明できるようになることは、これからの学びにおいてとても重要な力になります。
デュアルコーディングは「忘れない学び」への近道
ここまで見てきたように、デュアルコーディングは、ただの記憶術ではありません。それは、「どう覚えるか」だけではなく、「どう理解するか」そして「どう思い出すか」までをふくんだ、総合的な学びの方法なのです。
言葉だけで学ぶのではなく、イメージを活用することで、記憶のヒントが増えます。言葉とイメージが補い合うことで、理解が深まります。そして、目に見えない抽象的なことを「見える化」することで、実感をともなった学びができます。
このような学び方を身につけることで、ただの暗記ではない「本物の理解」が育ちます。それは、テストでよい点をとるためだけでなく、将来の仕事や生活の中でも大きな力となります。問題を考えたり、説明したり、判断したりするときに、しっかりとした知識とイメージを持っていることは、大きな自信になります。
デュアルコーディングは、特別な道具が必要なわけではありません。ちょっとした工夫で、誰でも今日から使いはじめることができます。ノートに絵を描いてみる、図を使って説明してみる、頭の中でイメージを思い浮かべながら言葉を読み返す。そんな小さな行動が、確かな学びへとつながっていきます。
次の章では、教科ごとにデュアルコーディングをどう使えばよいか、具体的に紹介していきます。あなたの勉強に役立つヒントが、きっと見つかるはずです。
実際の学習での活用法
ノートに図やイラストを添える
学校の授業では、先生の話を聞きながらノートを取ることが多いと思います。ノートは、あとから見返して復習するための大切な道具です。しかし、ノートが文字だけでぎっしり埋まっていると、読み返すときに大事なポイントがどこなのか分かりにくくなったり、内容が頭に入りにくくなったりします。
そんなときに役立つのが、図やイラストを使ったノートの工夫です。たとえば、理科で「血液の流れ」を勉強するとき、文章だけで「心臓から血液が出て、動脈を通って全身に送られる」などと書いても、なんとなくしか理解できないかもしれません。でも、自分で心臓の形を描いて、そこから赤い矢印で血液が流れる方向を示すようにすると、一目で流れが分かります。
また、社会で「三権分立」というしくみを学ぶときも、文章だけで「立法・行政・司法が互いにけん制し合っている」と説明されても、イメージしにくいことがあります。しかし、「国会」「内閣」「裁判所」を三角形のように並べて矢印で関係を示すと、それぞれの役割や関係がはっきりと分かります。
数学でも図はとても役に立ちます。たとえば、三角形の角度についての問題を解くとき、文章で「この角度とこの角度が等しい」と書くよりも、図を描いてその角度にしるしをつけたり、補助線を引いたりした方が、どこが等しいのか一目で分かります。
このように、図を描くことで、学んでいることの「構造」や「流れ」が頭の中に視覚的に浮かんでくるのです。これは、ただ字を書くだけの学び方とは大きく違います。図は決して飾りではなく、学んだ内容を頭に届けやすくするための「道案内」になるのです。
実際に、ノートに図を描いた生徒の方が、あとでノートを見返したときに内容を思い出しやすいという研究結果もあります。大事なのは、絵がうまいかどうかではなく、「自分の理解を助けるために描く」という意識です。たとえ少し不格好でも、自分で描いた図は、自分の頭にしっかり残ります。
さらに、色分けを使うとより効果的です。たとえば、理科のノートで「酸素」は青、「二酸化炭素」は赤で書くなど、意味ごとに色を変えることで、記憶の中でも整理されやすくなります。図と文章をセットで書くことも大切です。図だけでは何を意味しているか分かりにくいこともあるので、簡単な説明文をそえることで、あとから見たときに思い出しやすくなります。
ポイント:
• 図は完璧でなくてよい。自分がわかればOK。
• なるべく色分けを使うと記憶に残りやすい。
• 文と図をセットで書くと、後から見ても理解しやすい。
マインドマップを使ってまとめる
「マインドマップ」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。これは、頭の中の考えを整理して、図として表す方法の一つです。紙の中央にテーマやキーワードを書き、そこから線を伸ばして関連する言葉や情報を広げていきます。まるで木の枝が広がっていくような形になるので、「思考の地図」とも呼ばれています。
たとえば、社会で「戦国時代」を勉強したとします。ノートのまん中に「戦国時代」と書き、そこから「有名な人物」「戦いの特徴」「お城のつくり」「農業のようす」などのテーマを枝のように広げていきます。そして、「有名な人物」のところからは「織田信長」「豊臣秀吉」「徳川家康」などの名前をつなげ、それぞれの人物についてのエピソードや政策をさらに枝分かれさせていきます。

このようにして情報を整理すると、バラバラに覚えていた知識がひとつのネットワークのようにつながり、頭の中にイメージとして残りやすくなります。しかも、自分で作るからこそ、「どの情報が大事か」「どうつながっているか」を考えながら学べます。
マインドマップを使うときは、長い文を書く必要はありません。短いキーワードだけで十分です。そして、できればカラーペンを使って、テーマごとに色を変えると、見た目も分かりやすくなります。イラストや小さなアイコンを入れるのも効果的です。たとえば、「織田信長」の横に「鉄砲」の絵を描いておくと、信長が鉄砲を使った戦いをしたことが自然に思い出されるようになります。
マインドマップは、理科や国語、英語にも使えます。たとえば英語では、「weather(天気)」を中央に書いて、そこから「rain(雨)」「snow(雪)」「cloudy(くもり)」などをつなげていけば、関連語をまとめて覚えやすくなります。理科では、「物質の状態変化」をマインドマップにすると、「液体」「気体」「固体」から変化のしくみや温度の関係が見えてきます。
マインドマップのコツ:
• キーワードは短く、印象的に書く。
• 絵やアイコンを入れると覚えやすくなる。
• 自分の言葉で書くと、より深く理解できる。
教科書や資料の図解を積極的に読む
教科書を読むとき、文章ばかりを追って、図や表をあまり見ていない人もいるかもしれません。でも、それはとてももったいないことです。教科書や資料集に出てくる図やグラフ、表は、すべて大切な情報をわかりやすく伝えるために用意されています。ただの飾りではなく、内容の理解を助けるヒントがつまっているのです。
たとえば、理科の「光の反射と屈折」の単元では、文章だけを読んでいても、光の動き方を想像するのは難しいことがあります。でも、教科書の中にある光の進み方の図を見れば、鏡に当たった光がどの角度で反射するのかが一目でわかります。矢印や角度の線が描かれていることで、説明されている内容が視覚的に理解できるのです。
社会科でも同じです。「人口ピラミッド」や「年表」は、文章では時間がかかるような情報を、図を使うことで短時間で把握できるようになっています。たとえば、「日本の少子高齢化」を文章で読むよりも、人口ピラミッドを見た方が、どの年代の人口が多いのかが一目でわかります。
図や表を見るときには、「なぜこの図がここにあるのか」「この矢印や色は何を意味しているのか」と自分に問いかけながら読むと、内容への理解がより深まります。凡例(はんれい)や注釈(ちゅうしゃく)もしっかり確認し、文章と図をセットで読んでいくことが大切です。
ポイント:
• 図や表だけを見るのではなく、説明文といっしょに読む。
• どうしてこの図が必要なのか、問いながら見る。
• 自分の言葉で図を説明できるようになると、理解は本物。
自分で図に描き直す
教科書にのっている図や表を「見る」だけではなく、それを自分のノートに「描き直す」ことは、とても大切な学習方法です。自分の手で図を描くことで、ただの受け身の学びではなく、「自分の頭で考えながら理解する学び」に変わっていきます。
たとえば、歴史の「鎖国」のしくみを勉強したとき、教科書の図をそのまま見るだけではなく、自分で紙に「長崎」「対馬」「薩摩」などの地名を書き、そこから外国との関係や貿易の流れを矢印で描いてみましょう。すると、頭の中で日本と外国のつながりが整理され、しかもその情報は記憶に残りやすくなります。
理科でも同じです。「光合成」のしくみを説明する文章を読んだだけでは忘れてしまうこともありますが、自分で「葉」「水」「二酸化炭素」「酸素」「光」などの要素を図に描いて、それぞれの関係を矢印でつないでいくと、「何が原因で何が起こるか」という因果関係がはっきりしてきます。
図に描くことは、決して特別な才能が必要なことではありません。最初はうまく描けなくても大丈夫です。むしろ、描くことで自分の理解のあいまいな部分に気づくことができるのです。それに気づけば、どこを復習すればいいかもわかるようになります。
ポイント:
• 図にすることで因果関係(原因と結果)が明確になる。
• 教科書の図をまねるだけでなく、言葉を図に変換する力を育てる。
• はじめは下手でもいい。「描く」ことで思考が深まる。
単語カードに絵を加える
英語の単語や、理科・社会の専門用語などを覚えるとき、多くの人が単語カードを使っていると思います。単語カードは、表に言葉、裏に意味を書いて、覚えたかどうかをすぐに確認できる便利な道具です。
でも、そこにちょっとした工夫を加えることで、さらに記憶に残りやすくなります。それが、「絵やシンボルを加える」という工夫です。たとえば、「apple」という単語を覚えるとき、小さなリンゴの絵を描いておくと、その絵が記憶の手がかりになります。音と意味と絵がつながることで、思い出す力が強くなります。
難しい単語にもこの方法は使えます。たとえば、「revolution(革命)」という言葉に、国旗をふっている人々の簡単なイラストを添えたり、何かが「変化する前と後」の様子を記号で描いてみたりすると、「革命=変化がある」というイメージが強く残ります。
さらに、色を使うことも記憶を助けてくれます。「名詞は青」「動詞は赤」など、自分なりのルールを決めておくと、カードを見ただけで文法的な情報も思い出しやすくなります。イラストがうまくなくても気にしないでください。自分が意味を思い出せるものであれば、それで十分です。
ポイント:
• 単語と絵をペアで記憶することで、思い出すきっかけが増える。
• 自分で描いたイラストのほうが、他人の絵より記憶に残りやすい。
• シンプルな記号でも効果あり。「意味づけ」が大切。
このように、デュアルコーディングの考え方を使って、日々の学習に視覚的な工夫を取り入れていくと、学んだことが頭の中にしっかり残り、思い出しやすくなります。次の章では、こうした学び方を、教科ごとにどう応用していけるかを見ていきましょう。
活用する上での注意点
デュアルコーディングという学び方は、言葉と言葉以外のイメージ(図やイラストなど)を組み合わせることで、理解を深めたり、記憶をしやすくしたりする方法です。とても効果的な学習方法ですが、うまく使わないと、かえって勉強のじゃまになることもあります。たとえば、「図を描くこと」が目的になってしまったり、「見た目」ばかりを気にして中身があやふやになってしまったりすることもあるのです。
この章では、デュアルコーディングを活用するうえで気をつけたいことについて、いくつかのポイントに分けて詳しく説明していきます。どれも学習の効果を高めるためにとても大切なことなので、ぜひ意識してみてください。
図やイラストを描くことそのものが目的にならないようにする
まずいちばん大切なのは、図やイラストを「きれいに描くこと」が目的になってしまわないようにすることです。これは多くの人がうっかりやってしまいやすいことです。たとえば、ノートをとっているときに、「どうしたらきれいに見えるか」「絵をうまく描けるか」ということに気を取られてしまい、気がついたら先生の話を聞き逃していた、というような経験はありませんか?
本来の目的は、「学んだことを理解し、あとで思い出せるようにすること」です。図やイラストは、その目的を助けてくれる「道具」にすぎません。どんなに上手に描けたとしても、それが学習の内容を理解する助けになっていなければ意味がないのです。
たとえば、理科の授業で「植物のつくり」について学んでいるとします。そこで花の図をとても丁寧に色分けして描いたとします。花びら、がく、めしべ、おしべなどを、カラフルに美しく仕上げたとしましょう。けれども、「その部分がそれぞれどんな働きをしているのか」を理解していなかったとしたら、その図はただの飾りになってしまいます。
逆に、絵がちょっと下手でも、簡単な線と記号で「めしべ=たねを作る部分」「おしべ=花粉を出す部分」というように意味がはっきり書かれていれば、それは立派な学習のための図になります。大切なのは、「自分の理解を助けるものになっているかどうか」なのです。
また、イラストを描くのが好きな人ほど、「どうせならもっとリアルに描こう」「色もグラデーションにしてみよう」と、どんどん時間をかけてしまうことがあります。ですが、図に時間をかけすぎると、肝心の復習や問題演習の時間が足りなくなってしまうこともあります。図を描くのに30分かかってしまったら、その30分で他の勉強ができなくなってしまいますよね。
図やイラストを使うことは、あくまで「理解を深めるための補助」であるということを、つねに忘れずにいてください。
ごちゃごちゃした図より、シンプルで要点を押さえた図を意識する
図やイラストを使うときに、もうひとつ大切なのは「シンプルにまとめる」ということです。人は、ひと目でわかる情報の方が、記憶に残りやすいのです。逆に、情報が多すぎてごちゃごちゃしている図は、「結局、何が言いたいのか分からない」と思われてしまいます。
たとえば、歴史の授業で「江戸時代の三つの身分(武士・町人・農民)」についてまとめようとしたとします。そこで、三つの人物を描き、それぞれの衣服、住まい、仕事の道具などを細かく描きこんでいったら、ノートが絵でいっぱいになってしまうかもしれません。その結果、誰が何をしていたのか、結局わからなくなってしまうこともあるのです。
このような場合は、それぞれの身分の特徴を一つか二つに絞って書くことで、図がスッキリまとまります。たとえば、武士なら「刀を持ち、政治を行った」、農民なら「米を作って年貢をおさめた」、町人なら「商売をして生活していた」というように、要点をピックアップするのです。こうすれば、一目見ただけで、それぞれの役割がわかります。
また、図を描く前に「この図で一番伝えたいことは何か?」を考えてみましょう。その中心となる考えがはっきりしていれば、必要な情報とそうでない情報の区別がつきます。無理に全部を詰め込もうとしないことが、見やすい図を作るコツです。
さらに、図の構成を工夫すると、よりわかりやすくなります。たとえば、時間の流れを表したいときは、左から右に流れるように図を描くと、自然と順番が理解しやすくなります。上下に分類する場合は、上を重要なこと、下を補足情報にするというように、配置に意味を持たせることも大切です。
色や飾りを増やしすぎると、かえって注意が散漫になることもある
図やノートに色を使うことは、とてもよい工夫です。色を使うと、どこが重要なのかを目立たせることができたり、情報を分類しやすくなったりします。でも、色を使いすぎたり、飾りをたくさん加えすぎたりすると、逆に集中しにくくなることもあるのです。
たとえば、ノートに赤・青・緑・黄・ピンクなど、5色以上のペンを使って、さらに吹き出しやハートマーク、星マーク、矢印をあちこちに描いたら、にぎやかではありますが、「どこが本当に大事なのか」が分かりにくくなってしまいます。見る人の目があちこちに行ってしまい、注意が散ってしまうのです。
これは「注意の分散」と呼ばれる現象で、人間の脳は、あまりにたくさんの刺激を一度に受けると、どこに注目すればいいのか分からなくなってしまいます。その結果、かえって内容が頭に入りにくくなってしまうのです。
だからこそ、「色にはルールをつけて使う」ことが大切です。たとえば、「赤は絶対に覚えるべきこと」「青は補足説明」「緑は例や具体的なエピソード」などと決めておけば、ノートを見返したときに、どこを重点的に見ればよいのかがすぐにわかります。こうすることで、色が「意味のあるサイン」として働くようになります。
飾りについても同じです。吹き出しや枠などは、強調したい部分にだけ使いましょう。ノート全体に飾りをつけるのではなく、「ここぞ」というところにだけ使うと、視線が自然にそこに向かい、記憶に残りやすくなります。
色や飾りは「見た目をきれいにするため」ではなく、「内容を分かりやすく、思い出しやすくするため」に使うものだということを、つねに意識しておきましょう。
見やすく、意味が明確であることが何より大切
ここまでの話をふまえて、最後にもっとも大切なことをお伝えします。それは、「図やイラストは、見やすくて、意味がはっきりしていることが一番大事」ということです。
どんなに時間をかけて丁寧に描いたとしても、それを見たときに「何を伝えようとしているのか」がすぐに分からなければ、せっかくの努力がもったいないのです。逆に、見た瞬間に「なるほど、これはこういう意味なんだな」と伝わる図は、記憶に残りやすく、復習にもとても役立ちます。
たとえば、友だちに「この図、何をあらわしているかわかる?」と聞いてみてください。すぐに意味が伝われば、その図は「伝わる図」になっています。でも、「うーん、ちょっと分かりにくいかも」と言われたら、どこかに改善できるポイントがあるはずです。
また、自分自身で図を見返したときに、「この図は何を伝えたかったんだっけ?」と迷ってしまったら、その図はまだ完成していないということになります。図を描いたら、必ずあとから見直してみて、「この図は、自分にとって分かりやすいか」「内容をきちんと思い出せるか」を確認してみてください。
学習に使う図は、「きれいさ」や「芸術的な完成度」ではなく、「伝わりやすさ」と「意味の明確さ」がいちばん重要です。図やイラストはあくまで学習の手段。だからこそ、うまく使いこなせるようになると、理解も記憶もグッと深まっていきます。
この章で学んだように、デュアルコーディングを活用するときには、「何のために図を描くのか」「どうすれば見やすく、思い出しやすくなるか」を意識することが大切です。図や色、飾りなどは、学びのサポートをしてくれる道具です。道具を正しく使えば、学習はもっと楽しく、もっと効果的になります。これからの学びに、ぜひ役立ててください。
まとめ ― デュアルコーディングが開く新しい学びの扉
私たちは、毎日の勉強の中でたくさんの情報に出会います。教科書を読んだり、ノートに書き写したり、先生の話を聞いたりして、それらの知識を少しずつ頭の中に入れていこうとしています。でも、なかなか覚えられなかったり、すぐに忘れてしまったりすることもありますよね。
そんなときに役立つのが、この本で紹介してきた「デュアルコーディング理論」です。
デュアルコーディング理論とは何だったか
デュアルコーディング理論は、1970年代に心理学者アラン・パイヴィオによって提唱された考え方です。人間の脳は、「言葉での情報」と「イメージ(視覚的な情報)」を別々のしくみで処理していることがわかっています。そして、この2つのしくみを同時に使うことで、理解が深まり、記憶に残りやすくなるというのが、この理論の基本的な考え方です。
たとえば、英語で「apple」という単語を覚えるとき、文字だけを見るよりも、りんごの絵や写真と一緒に覚えた方が忘れにくいという経験をしたことがある人もいると思います。これは、言葉とイメージの両方で記憶されたからなのです。
私たちの脳は、情報が複数の形で記憶されていると、そのどちらか一方を手がかりにして思い出しやすくなる、という性質があります。言葉だけに頼るのではなく、図やイラストといった「もう一つの入り口」をつくっておくことで、脳の中により強く、より確実に情報を刻み込むことができるのです。
「今すぐ」できる、でも「深い」学習法
デュアルコーディングのよいところは、特別な道具や準備がなくても、すぐに始められるという点です。たとえば、今あなたが使っている学校のノートや教科書を、少しだけ工夫してみることから始められます。
たとえば、
• 理科のノートに、「光の反射」の仕組みを図で描いてみる
• 社会の歴史で、「鎌倉幕府のしくみ」を箱図で整理してみる
• 英単語を覚えるとき、意味を表す小さなイラストを描き添える
• 数学の文章題を図にして状況を視覚的に把握する
といったように、すでに学んでいる内容の中から、1つでも図やイメージで表せるものを探してみるだけで十分です。こうした「ちょっとした工夫」が、実は大きな違いを生み出します。
大切なのは、「きれいに描くこと」や「芸術的に仕上げること」ではなく、自分の頭の中にある情報を“見える形”にすることです。たとえ下手でも、自分で描いた図やスケッチは、あなた自身の理解の証です。そのプロセス自体が、記憶を助け、理解を深める力になります。
続けることで、学習習慣そのものが変わる
はじめのうちは、図を描いたり視覚化したりすることに時間がかかるかもしれません。でも、慣れてくると、「どうすれば図にできるだろう?」「どんなイメージで覚えようか?」と考えるクセがついてきます。これは、あなたの学びのスタイルがより深いものに進化していくサインです。
また、図やイメージで学んだ内容は、「あれ、あのとき描いた三角の図の左側にあった言葉って…」というふうに、空間的な記憶と結びついて思い出しやすくなることもあります。イメージは記憶の「場所」をつくってくれるのです。
さらに、デュアルコーディングを続けていくことで、次のような良い変化が生まれます。
• 文章だけでは分かりづらいことも、図にすれば「あっ、そういうことか!」と理解しやすくなる
• ノートを見返すときも、図のおかげで「どこに何が書いてあるか」がすぐにわかる
• テスト勉強のときも、図を思い出すことで答えが浮かびやすくなる
• 自分の考えをまとめたり、人に説明したりするときにも図が使えるようになる
つまり、図やイメージを使う力は、学力全体を支えてくれる「学びの基盤」になるのです。
自分の学び方を、自分で育てていく
この本で紹介してきたデュアルコーディング理論は、だれにとってもすぐに始められる方法ですが、使い方は人それぞれです。ノートの取り方、図の描き方、色の使い方などには「正解」はありません。自分に合ったやり方を、少しずつ試しながら見つけていくことが大切です。
たとえば、
• 文字と図のバランスはどのくらいがちょうどよいか
• どんなときに図を使うと、理解しやすくなるか
• どの教科で、どの単元に効果があるか
こういったことを意識して振り返っていくうちに、あなたの中で「自分だけの学習スタイル」が少しずつ育っていきます。これは、ただ勉強するのではなく、学び方そのものを学んでいるという、とても大切なプロセスです。
自分の学び方を、自分で見つけて育てていく力は、これから高校、大学、そして社会に出てからもずっと役立ちます。デュアルコーディングは、そうした力を育てる最初のステップとして、きっと大きな力になってくれるはずです。
最後に ― 一歩をふみ出す勇気が学びを変える
学び方には、いろいろな工夫があります。でも、「難しそう」「自分には無理かも」と感じてしまって、なかなか新しいことを始められないという人もいるかもしれません。
けれど、デュアルコーディングは、誰でも今日から始められる、小さな一歩からの挑戦です。まずはノートの片すみに図を描いてみる。色を1色だけ変えてみる。それだけで、あなたの脳は今までと違う働きを始めてくれます。
その一歩が、やがてあなた自身の理解を深め、学ぶことの楽しさを感じるきっかけになるかもしれません。知識が「意味のある形」になって頭に残っていく感覚は、ただ覚えるだけの勉強とはまったく違った、本当の学びのよろこびです。
学ぶということは、自分自身を育てるということです。そして、デュアルコーディングは、その育て方にヒントを与えてくれる優れた方法です。
ぜひ、これからの学びに取り入れて、あなたらしい学びのスタイルを見つけていってください。